夜の遊園地

夜10時。

ギャラリーの店番を終えて家に帰ると、マンション群の手前で、闇にうごめく人影を見た。

私が住んでいるマンション群は非常に大きく、その中にはレストランやスーパー、クリーニング屋さん、マッサージ屋さんまである。その他にもプールやらジムやらさまざまな施設が入っていて、さらに住民の憩いの場としてのちょっとした公園もいくつか設置されている。

暗闇に浮かぶ白い人影は、ゆったりとした足取りで公園の茂みに入ってゆく。

ちょっと怖い気持ちもあったけれど、好奇心もあり、私は人影にさりげなく注意を払いながら歩みを進めた。白い影ってまさか・・・アレ?



公園の茂みをのぞいてみると、そこにはいくつもの白い影が揺れていた。

・・・何?チャイニーズゴーストストーリー??

パニックを起こしかける私のすぐ横を、新たな、汗臭い白い影がすり抜けていく。

・・・汗臭い?

よく目をこらして、もう一度公園の中を見てみる。



そこは、遊園地だった。

白いキャミソールを着た女の子がブランコをこぎ、白いTシャツの男の子が健康器具で腕を鍛えている。バネのついた馬の遊具には白いランニングを胸までまくりあげたおじいちゃんがまたがり、左右に思い切り揺れている。奥にはステテコのようなズボンでベンチに腰をおろしてタバコを吸っているおじいちゃん、その隣でぼんやりと夜空を眺めているおばあちゃん。それぞれが、示し合わせたようにそれぞれの行為に没頭しており、ちょっとした異空間を作り出していた。

大人も、馬の遊具で真剣に遊ぶんだなというのが、とっさに思った感想だった。

夏になると、夜にそのへんを散歩する人々を見かけることはよくあったが、公園で遊んでいる彼らを見るのは初めてのことだった。



昼間はお母さんやおばあちゃんに連れられた子供でごった返し、赤ちゃんが泣き、犬が吠え、直射日光が降り注ぐ少々暑苦しい公園だけれど、夜は大人たちの癒しの空間として、立派に機能しているのかもしれないと思わせるような光景だった。

一日の最後をビールではなく公園でしめる。多少涼しさを感じられる夏の夜、そうやって自然の風の中でほどよく汗をかくことこそが、彼らならではの、夏の健康法なのかもしれない。